記事掲載のお知らせ『PHARM STAGE』2019年2月号

当社社員執筆の記事が『PHARM STAGE』2019年2月号に掲載されました。

eCTD作成でオーバークオリティにならないためには?

片山 奈津
株式会社CACクロア 営業本部 営業企画部

1 はじめに

 2004年6月にeCTD受付開始されて以降、本邦においてはこれまで約1,200件のeCTDが独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(以下、「PMDA」)に提出されている1)。また、2016年10月より申請電子データシステムへのeCTDの電送による提出が可能となった。
 PMDAへのeCTDによる承認申請にあたっては、「CTDの電子化仕様」2)および「新医薬品の製造販売の承認申請に際し承認申請書に添付すべき資料の作成要領について」3)(以下、まとめて「eCTD仕様」と呼ぶ)に従ってeCTDを作成する必要がある。多くの場合この作業は申請直前の短期間で行うため、eCTDの技術的要件を満たしながらも効率的に行うことが求められる。
 本項では、PMDA提出用eCTDの一般的な作成プロセスを紹介した後、eCTDに求められるクオリティについて考察し、最後に、技術的要件を満たしたeCTDを効率的に作成するためのポイントについて記述する。
 なお、eCTDの「クオリティ」と言う場合、承認申請に必要な内容が適切に記述されているかどうかの「承認申請資料のクオリティ」と、eCTDがeCTD仕様に従って作成され、審査に利用できる状態であるかの「eCTDの技術的要件に対するクオリティ」の2つの観点があるが、本項では後者について記述することとする。また、eCTDと共に提出が求められる申請電子データのクオリティについては本項では記述の対象外とする。

2 一般的なeCTD作成プロセス

 eCTD作成は主に、(1)ドキュメント作成(ライティング)、(2)PDF化、(3)Submission-Ready化、(4)eCTD編纂の4つのステップを踏んで進められる(図1参照)。

 

図1 一般的なeCTD作成のプロセス

 

(1)ドキュメント作成(ライティング)

 非臨床試験、臨床試験、および品質に関する情報をもとに、CTDドキュメントや報告書等の申請資料のコンテンツを作成する。
 この際に、eCTD仕様に基づき設定したWordテンプレートを利用することが一般的であるが、Wordの「スタイル」機能、「図表番号の挿入」機能、「目次」機能、「相互参照」機能を適切に利用することで、PDF化時に自動的にブックマークや文書内ハイパーテキストリンク(以下、「リンク」)を作成することが可能となる((2)PDF化参照)。
 他のドキュメントを参照する場合は、参照するドキュメントのCTDセクション番号、添付資料番号、図表番号、または試験番号等を本文中に記載し、それら文字列がeCTD編纂時に文書間リンクの作成対象となる。

(2)PDF化

 PMDA提出用eCTDに格納するファイル(以下、「リーフファイル」)は全てPDF形式で提出する必要がある(モジュール1.12添付資料一覧のみ、PDF形式に加えてExcel形式での提出が必要である)。PDF化にあたってはAcrobat PDFMaker等のPDF変換ツールやレンディションサーバーを利用する。PDF変換ツールやレンディションサーバーの設定に応じて、ドキュメント作成(ライティング)の過程で設定したスタイルからブックマークが作成され、目次および相互参照はリンクに変換される。ドキュメント作成(ライティング)時に使用したフォントによってはPDF化後に文字化けする可能性があるため、PDF化後にコンテンツが正しく表示されているか確認することが望ましい。

(3)Submission-Ready化

 本項では、eCTDの技術的要件を満たすようリーフファイルをeCTD仕様に従って電子的に加工することをSubmission-Ready化と呼ぶ。
 PDFファイルにおいては一般的に次の作業およびチェックが発生する。ドキュメントの種類、ファイルの状態、および申請者の品質基準によって作業およびチェック範囲は大きく変動するため、作業前に作業およびチェック範囲の摺合わせが必要となる。例えば、海外で作成されるリーフファイルは日本特有の制限事項(レビューシステムや申請電子データシステムの制限事項等)に対応していない可能性がある。

 ①ファイルの結合(Report Publishing)
  ・ファイルの結合
  ・目次の作成
  ・ヘッダー/フッターの付与
  ・ブックマークの整備
  ・リンクの整備

 ②ファイルの分割
  ・ファイルの分割
  ・分割後ファイルに飛ぶ文書間ブックマークの作成
  ・分割後ファイルに飛ぶ文書間リンクの作成

 ③ブックマーク・リンクの作成およびチェック
  ・ブックマーク・リンクの作成(PDF化時に作成されないブックマーク)、設定の統一
  ・ブックマークのチェック(抜け漏れ、文字列、階層構造、飛び先等)
  ・リンクのチェック(抜け漏れ、枠範囲、文字色、飛び先等)

 ④ブックマーク・リンク以外のPDF設定のチェック
  ・PDFバージョン
  ・PDFのセキュリティ
  ・PDF初期表示
  ・リンク以外の注釈、フォームフィールド
  ・JavaScript等のスクリプト類
  ・セキュリティ脆弱(ぜいじゃく)性と思われる画像として認識される画像

(4)eCTD編纂

 Submission-Ready化済みのリーフファイルを収集し、CTDのしかるべきモジュールに配置する。
 各リーフファイルに対してeCTD仕様に準拠したファイル名およびタイトルを付与し、eCTDフォルダ構造への格納およびeCTDの目次に該当するXMLインスタンスの作成を行う。
 ファイル名の変更およびフォルダ構造への格納後、ドキュメント作成(ライティング)時に記載した参照に基づき文書間リンクの作成を行う。
 共同開発先やCROからリーフファイルを入手する場合、(1)~(3)のどの状態のファイルを入手するかによって必要となるeCTD仕様対応作業が変わるため、入手するファイルの状態を事前に確認し、契約等で合意しておくことが望ましい。

3 eCTDのクオリティとは

 前項で一般的なeCTD作成プロセスについて解説したが、では「eCTDの技術的要件に対するクオリティ」が高い状態とは、どのような状態であろうか。
 「CTDの電子化仕様」2)では、eCTDの技術的要件として次の6つが定義されている。

 ①コピーおよびペースト
 ②文書の閲覧および印刷
 ③文書の注釈付け
 ④データベースへの情報のエクスポート支援
 ⑤申請資料内および申請資料間の検索
 ⑥eCTD全体およびその後の修正/変更申請に渡るナビゲーション

 各要件に対応するための具体的な確認項目の例を表1に示す。表1に示す項目について全て満たしていることが確認できればeCTDのクオリティとしては理想的であるが、そのためにはSubmission-Ready化時に膨大な作業とチェックが発生する。従って、eCTDの技術的要件への影響が大きいと判断された項目についてのみ対応・チェックすることが一般的である。

 

表1 eCTD の技術的要件と確認項目の例

技術的要件 確認項目の例
コピーおよびペースト ファイルレベルのセキュリティ設定やパスワード保護設定が含まれていない
フォントが埋め込まれている
文字化けがない
文書の閲覧および印刷 必要なコンテンツが揃っている
正しいリーフファイルが格納されている
ファイルが適切な粒度に結合/分割されている
ファイルレベルのセキュリティ設定やパスワード保護設定が含まれていない
フォントが埋め込まれている
文字化けがない
ページ番号が付与されている
文書の注釈付け すべてのフォームフィールド及びリンク以外の注釈が削除されている
データベースへの情報のエクスポート支援 JavaScript等のスクリプト類が削除されている
JPEG 2000等のセキュリティ脆弱性のある画像が含まれていない
「eCTD 電子化仕様確認チェックリスト」4)の要件を満たしている
申請資料内および申請資料間の検索 文字化けがない
eCTDインスタンスに表示された管理情報/属性情報が正しい
eCTDインスタンスに表示されたリーフタイトルが正しい
eCTD全体およびその後の修正/変更申請に渡るナビゲーション eCTDインスタンスに表示されたリーフタイトルとリンク先のリーフファイルが一致している
正しい相互参照先の記載がある
ドキュメントの内容が分かるヘッダーが付与されている
目次がある
適切な文書内/文書間ブックマークが作成されている
適切な文書内/文書間リンクが作成されている

4 クオリティの高いeCTDを効率的に作成するためのポイント

 Submission-Ready化およびeCTD編纂段階の作業量の増大を防ぐためには、ドキュメント作成(ライティング)の段階から合理的なクオリティ基準や対応手順を定義しておくことが鍵となる。具体的な考慮ポイントとして、筆者の経験に基づき次の4点を提案する。

(1)eCTDに合わせた執筆ルールの整備

 eCTD仕様を意識した執筆ルールを整備し、ルールに従ったドキュメント作成を行うことで、後続のeCTD仕様対応負荷を下げることができる。
 一例として、ドキュメント内・間相互参照記載ルールを明確化し手順書やテンプレートに反映することで、過剰で不明瞭な相互参照の挿入を防止し、Submission-Ready化およびeCTD編纂時の文書内・文書間リンクの作成およびチェックの負荷を低減できると考えられる。

(2)リーフファイルの一覧表の整備

 リーフファイルの格納漏れがeCTD提出直前に発見されると、当該リーフファイルについてPDF化以降の作業が発生するのみならず、当該リーフファイルを参照する別のリーフファイルについても文書間リンクの飛び先変更等の作業が発生する可能性がある。
 追加作業の発生を防ぐためには、リーフファイル情報がeCTD編纂作業時に明確かつ正確な状態でeCTD編纂担当者に共有されている必要がある。そのためには、eCTD構成と対応するリーフファイルが分かる一覧表を作成し、リーフファイルの情報に過不足がないことや一覧表に記載されたリーフファイルが漏れなくeCTD編纂担当者に受け渡しされたことの確認が重要となる。

(3)eCTDに係る品質基準の整備と周知

 リーフファイルのeCTD仕様に対する対応基準をあらかじめ整備しておくことにより、Submission-Ready化時の各作業項目の実施要否を素早く判断できるようにすることが望ましい。特に、品目や領域ごとにeCTD担当者が変わる場合は、担当者間の判断のブレを防ぐための周知徹底が重要となる。

(4)合理的な薬事オペレーションプロセスの整備

 (3)の基準に従った作業およびチェックをどの段階で行うのかを定義した薬事オペレーションプロセスを整備することによって、Submission-Ready化時やeCTD編纂時に集中しがちなリーフファイルのeCTD仕様対応を平準化できると考えられる。
 また、薬事オペレーション担当者を設置し、(1)~(4)の整備を薬事オペレーション担当者主体で実施することは、リーフファイルのeCTD仕様対応を合理的に行う上で有効な手段となる。薬事オペレーション担当者の役割は、主に以下に示すものが考えられる。

 ・eCTD作成に係る基準書・手順書の作成
 ・リーフファイルの一覧表の整備
 ・ライティング担当者へのeCTD仕様の啓蒙
 ・ドキュメントの書式チェック
 ・リーフファイルのチェック
 ・eCTDの申請電子データシステムへの提出

5 最後に

 近年、製薬企業のあらゆる業務において、Robotic Process Automation(以下「RPA」)やArtificial Intelligence(AI)を利用した作業の自動化・デジタル化が進んでおり、デジタル化前と比較して業務効率が劇的に改善したという事例も報告されている。例えば当社では医薬品安全性情報管理業務の一部の手作業プロセスをRPAで代替したところ、平均8割の作業時間削減が認められた5)。また、文献査読業務およびMedDRA(ICH国際医薬用語集)辞書の検索にAIを活用し、業務の効率化と品質の向上の実現を確認した6)
 eCTD作成作業もデジタル化可能な作業である。eCTD作成プロセスを整備し標準化することは、作業の自動化・効率化のはずみになる。より効率的にクオリティの高いeCTDを作成するために、本項が参考となれば幸いである。

 

 

 

参考文献

1)(独)医薬品医療機器総合機構 eCTD提出状況(2018.9.30現在)
http://www.pmda.go.jp/files/000226194.pdf
2)コモン・テクニカル・ドキュメントの電子化仕様(Version 3.2.2)
https://www.pmda.go.jp/files/000156705.pdf
3)厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知 「コモン・テクニカル・ドキュメントの電子化仕様の取扱いについて」の一部改正について(薬生薬審発0824第3号:平成28年8月24日) 別紙1 電子化コモン・テクニカルドキュメントの作成要領について
https://www.pmda.go.jp/files/000213999.pdf
4)独立行政法人医薬品医療機器総合機構通知 電子化コモン・テクニカル・ドキュメント(eCTD)の取扱いについて(薬機発第0629005号:平成17年6月29日)
http://www.pmda.go.jp/files/000156145.pdf
5)株式会社CACクロア ニュースリリース 「RPA(Robotic Process Automation)を受託業務へ導入開始」https://www.croit.com/news/robotic-process-automation-jp/
6)株式会社CACクロア ニュースリリース 「AIで医薬品開発業務の効率化と品質向上を両立」https://www.croit.com/news/utilizing_ai/

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